龍に出会った意味を追いかける。
僕は夏休みを利用して、京都北部にある実家に帰省していた。
祖父が使っていた部屋に布団を敷き、寝転がって虫の音を聞きながら、都会とは違う緩やかな時間の流れを懐かしんでいた。
そしていつの間にか寝てしまい、夢を見た。
そこは幼少の頃からお参りしている神社の入り口だった。
長い階段の前に立つと、社叢から流れてくる木々の匂いを含んだ冷たい風が頬を撫でた。
その風に誘われて、階段を登り鳥居をくぐると、手水舎があるのだが、よく見ると中に何かがいる。
黒い龍だ。
ぴちゃぴちゃと行水を愉しんでいる。
僕は引き寄せられるように、龍に近づいた。
宇宙が一廻りしたような、八千代の時間が広がる。
どれぐらいの時が経ったのか分からない。
何か合意のようなあるいは契約のような何かがあったのだと思う。
僕の意志とは関係なく体が勝手に動き手水舎にするりと入っていった。
恐怖心はあった。
でも、それよりに勝る何か磁石のような力で気持ちが吸い寄せられた感覚があった。
そこで僕は目覚めた。
寝起きであるはずなのに、頭が驚くほど澄み渡っている。
思わず僕は自分の頬を触った。
あの風の感覚がまだ残っていた。