水に誘われて。
仕事を辞めている間、時間のあった僕は、色々なところに出かけて歩いた。
そのうちの一つが、福井にある瓜割の滝だった。
そこには、原生の生々しい空気が場を覆っていた。
時期は五月で緑がいっぱいに茂っていて、その精気にあたって頭が少しクラクラする。
異国を訪れたような高揚感がこみ上げてくるが、それを首根っこから押さえつけるようなピンと張り詰めた緊張感が胸を貫く。
水の音だ。
滝というにはあまりにも小さく、水というには余りにも滑らかな。
あぁ、と溜息が出る。
手に触れると、またも溜息。
あぁ。
滝を後にしようとすると、ザーっとスコールのような雨が降り出した。
血が滾り踊り出したくなるような高揚感。
あぁ、とまた溜息がでる。
雫の鼓動が僕の脈を伝って、心の器を満たしていく。
僕は水で、水は僕となる。