由良川に棲む龍
僕の地元は大昔から水難を受けていた。
由良川の氾濫だ。
暴れまわる由良川は堤防でも防ぎきれず、今でも治水を完璧にすることはできていない。
その日は集中豪雨が発生し、とてつもない風雨が巻き起こっていた。
夜通し轟音が鳴り響く。
マシンガンのような爆音の強い雨が家を打ちつける。
時折、停電が生じた。
恐怖は倍加され、絶望が起こる。
一夜明けると、昨晩の嵐が噓のように空はからりと晴れていた。
外にはこれまで嗅いだことのないような泥臭い匂いが立ち込めている。
僕は街の様子を見にいった。
僕の家は高台に位置していたため、由良川の氾濫の影響はなかった。
だが、由良川沿いの被害は信じられないほどに甚大であった。
町中は水浸し、というより川の中に家が埋まっているように見える。
どこに行っても腰ほどの高さまで泥色の水だ。
レスキュー隊がゴムボートにより家々から避難できなかった人たちを救出している。
信じられない光景だった。
この降雨により市域で床上浸水1,155戸、床下浸水1,296戸の甚大な被害が生じた。
由良川が暴れたのだ。
そこには意志を持った「暴力」があったように思えてならなかった。